朝から夏の日差しが照り付ける暑い日。
養生堂には元気な声が響いていた。
「甘草くん!」
台所から生姜の声が響いた。
「人参くんがまた新しいお粥を作り始めたよ!」
「大棗ちゃんが『甘い方が元気になるよ!』って、棗をどんどん入れちゃってるぜ!」
「えぇっ…」
甘草は慌てて台所へ駆け込む。
「人参くん、それは先生に聞いてからにしましょう」
「大棗ちゃんも、少しだけ待ってくださいね」
「えー。でも絶対おいしいよ?」
「それは分かります。でも、まずは先生に……」
その横では、
「お客さんには、まず温かいお茶を」
と桂枝。
「いや、ちゃんと冷えているのか確認しないと」
「あなたは、なんでもかんでも温めすぎ」
と芍薬。
「お二人とも…」
甘草は苦笑いしながら間に入る。
ようやく店の中が落ち着いた頃には、お昼はとっくに過ぎていた。
甘草はホッと小さなため息を吐く。
相変わらずの苦労人である。
その時、暖簾が静かに揺れた。
「こんにちは……。」
入ってきたのは、六十代くらいの男性だった。
少し痩せた身体。
日に焼けた肌に、どこか土色がかった疲れた顔色。
町内会の会長だった。
「こんにちは」
クコが穏やかに迎える。
「今日は、どうされましたか?」
男性は苦笑いを浮かべた。
「今年は町内会の夏祭りの役員をしておりまして…」
「焼きそばはどの班が担当するか。」
「焼き鳥はどこがやるか。」
「去年はこうだった。今年はこうしたい。」
「皆さん、それぞれ一生懸命なのは分かるんです…」
「分かるんですが、なかなか話がまとまらなくて…」
「毎日その調整ばかりしていたら、なんだか疲れてしまいました。」
「最近は暑いのもあって、食欲もなくなってしまって…」
「お腹もゴロゴロ鳴るし……とにかくだるくって…」
クコは何も言わず、最後まで話を聞いていた。
そして、そっと甘草を見る。
甘草はじっと男性を見つめていた。
しばらく沈黙が流れたあと、クコが小さく笑った。
「ふふっ」
「甘草くんと、一緒だね。」
「えっ?」
男性と甘草が、同時に顔を上げる。
「間に入って、みんなをまとめて。」
「気づけば、自分のことは後回し。」
「最近、やせちゃってるし…」
甘草は少し照れくさそうに笑った。
「……確かに。」
男性も思わず吹き出す。
「私も、そんな感じですね。」
クコは立ち上がると、台所へ向かった。
「人参くん、とうもろこしの実を外してくれる?」
「はい!」
「生姜くんは、いんげん豆をお願い。」
「まかせろっ!」
「大棗ちゃんは、山芋をお願い。」
「わかった~。先生、なつめも入れるでしょ?」
クコはにっこりと頷いた。
「もちろん」
土鍋の中には、
とうもろこしの黄色、
いんげん豆の緑、
なつめの赤、
山芋のやさしい白。
色とりどりの具材が顔をのぞかせ、白い湯気がふわりと立ちのぼる。
やさしい香りが、養生堂いっぱいに広がっていった。
クコは、お膳を二つ並べる。
「さぁ、お二人とも。」
「今日は一緒に食べましょう。」
「えっ、私もですか?」
甘草が目を丸くする。
「会長さん、甘草くんがご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんです」
最初はぎこちなかった二人も、お粥を食べながら少しずつ話し始める。
「焼きそば班と焼き鳥班がね……」
「そうそう、人参くんと大棗ちゃんもね…」
「うん、うん、大変だよね」
「全部、自分で何とかしようとしちゃって…」
「あぁ、わかります。」
気づけば二人とも笑っていた。
お粥も、いつの間にか、きれいになくなっていた。
クコがお茶を注ぎながら、静かに微笑む。
「二人とも、少し力を抜いて、お腹もいたわってあげましょうね。」
男性は大きく頷いた。
「今年の夏祭りは、少し肩の力を抜いてやってみます。」
甘草も照れ笑いを浮かべる。
「そうですね。私も…」
暖簾の向こうでは、夏祭りの準備を知らせる風がそっと吹き抜ける。
養生堂には、今日も穏やかな時間が流れていた。
第十三話 ~ 完 ~



どうしても自分と重ねて読んでしまいます。
周りを優先して、自分の疲れにはなかなか気づけない。
そんな人に、この物語は「少し休んでもいいんだよ」と、自分の代わりに癒してくれるような気がします。
今回も養生堂で、心まで温めてもらいました。
今回はほのぼの回✨
癒されますね😄✨甘草君とお客さんが一緒に食べながら悩み共有し合っているところがとても良かったです✨🦋