「そんなにやさしい刺激で効くんですか」
「もっと強く押さなくて良いんですか」
鍼灸按摩マッサージ指圧師になってから、何度か耳にしたセリフです。
確かに、テレビなどで紹介される鍼灸は
深く刺したり
電気を流したり
強い刺激を与えたり。
そんな場面が多いかもしれません。
ですが、私がこれまで臨床で出会ってきた患者さん達は、少し違いました。
疲れ切った方。
眠れない方。
長く頑張り続けてきた方。
年齢を重ねた方。
そんな方々ほど、優しい刺激の方が身体がよく反応することがありました。
ほんの少し鍼をする。
お灸でじんわり温める。
手を添えて、ゆっくり呼吸を待つ。
すると、張り詰めていた身体が少しずつ緩み、表情まで柔らかくなっていく。
そんな姿を何度も見てきました。
「どうしてなんだろう。」
ずっと心のどこかにあった疑問でした。
そんなある日、一つの論文が目に留まりました。
そこには、皮膚に存在する「TRPV4」という受容体が
鍼の刺激を神経へ伝える役割を担っている可能性が示されていました。
難しい名前ですが、皮膚にある「刺激を感じ取るセンサー」の一つです。
押されたこと。
引っ張られたこと。
温められたこと。
そうした変化を感じ取り、神経へ伝える小さなアンテナが、
私たちの皮膚には無数に存在しているというのです。
やさしい刺激が、どのように身体へ伝わるのか。
その仕組みは、近年になって少しずつ明らかになってきました。
私は論文を読みながら、思わず手を止めました。
長年現場で感じてきたことは、こういうことだったのかも…。
もちろん、一つの論文だけですべてが説明できるわけではありません。
それでも、経験として感じてきたことと、現代の研究が少しずつ重なったような気がして、とても興奮しました。
「ああ、だからだったのか。」という思いが頭から離れず、
その夜はなかなか眠れませんでした。
思えば私たちは毎日、皮膚を通して世界を感じています。
春の風が心地よいこと。
お気に入りの毛布に包まれると安心すること。
温かい湯飲みを両手で包むと、ほっとすること。
誰かに肩をそっとさすってもらうだけで、涙が出そうになること。
その一つひとつを、皮膚というアンテナが受け取り
脳へ伝えているのかもしれません。
東洋医学には昔から「触れる」という文化があります。
鍼も、お灸も、按摩もそうです。
昔の人たちはTRPV4という名前を知りませんでした。
けれど、優しく触れられると身体が緩むことを経験から知っていました。
温められると安心することを知っていました。
現代の研究は、その理由を少しずつ明らかにしようとしています。
身体はどうやって安心を感じるのか。
なぜ優しい刺激でも身体は変わるのか。
東洋医学の知恵と、現代の研究を行き来しながら
みなさんと一緒に考えてみたいのです。
この連載では、そんな「身体の不思議」を
養生堂らしくゆっくり紐解いていこうと思います。
身体は、私たちが思っている以上に賢い。
今日も私たちの皮膚は、静かに世界と対話しています。
参考にした研究
本記事は、皮膚の感覚受容体(TRPV4)と鍼刺激に関する近年の研究や、神経科学・ポリヴェーガル理論などを参考にしながら、筆者自身の臨床経験と考察を交えて執筆しています。
一つの研究だけで鍼灸の作用を説明できるものではありませんが、「身体はどのように刺激を受け取り、安心を感じるのか」を考えるための、大切なヒントになると感じています。
Cutaneous TRPV4 Potentiates the Afferent Transmission of Electroacupuncture Stimulation
ACS Omega, 2025.



The moment that stayed with me was your recognition that something you had observed for years in practice might finally have a scientific language. I also appreciated that you held onto the excitement without treating one study as a complete answer. That combination of experience and curiosity feels like a thoughtful way to keep learning.
手当て、は、手を当てるって書く、手を当てるだけでも癒しになるんだよ、みたいなことを昔言われたことを、ふと思い出しました😌