午後四時。
養生堂には、穏やかな音楽とラジオが流れていた。
「今日もバク然らいぶらりのお時間です」
大棗が、目を輝かせて耳を傾ける。
「この番組、なんだか好きなんだよね」
「そういえば、朝から生姜君がいないと思ったら、今日だったのか」
桂枝が笑う。
「そうですね。ちゃんと話せますかね」
甘草がラジオの音を調整しながら笑う。
「大切なお話をしに行くと言って出かけましたよ」
芍薬もふふっと笑う。
その時、風鈴の音ともに扉が開いた。
「こんにちは。」
現れたのは、バク神さまだった。
「こんにちは。いつもお世話になります。」
クコが柔らかな笑顔で迎える。
「今日は……少し、お話を聞いてほしくて。」
「もちろんです」
クコは静かにうなずく。
大棗が温かいお茶を運び、
甘草がお茶請けをそっと添える。
バク神さまは一口のお茶で口を潤すと話し始めた。
「最近、ちょっと漠然が分からなくなって…」
そういうとしばらく何か言葉を探すように視線が宙を漂う。
「実は……漠然って、本当は、人の心に余白をつくるものだと思っているんです」
「答えを急がず、問いを抱えながら過ごす時間」
「そんな時間が、人を少し楽にしてくれると思っていて…」
「でも最近は、『漠然とした不安』という言葉ばかり聞くようになって……」
バク神さまは湯気を眺めながら、小さく息をついた。
「なんだか…」
「少し寂しいんです」
店内は静かだった。
誰も答えようとはしない。
窓から風が入り、風鈴がひとつ鳴る。
その時。
ラジオから、聞き慣れた声が流れてきた。
「本日のゲストは、元気いっぱいの生姜くん」
大棗が思わず顔を上げる。
「あっ、生姜くん」
少し誇らしそうに笑う。
クコも耳を傾けながら、ゆっくりと口を開いた。
「身体は、いつも何かを教えてくれています」
「でも、忙しかったり、焦っていたりすると、その声は聞こえません」
バク神さまが顔を上げる。
「……」
クコは、バク神さまの様子を静かに見守りながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「温かいお茶を飲むこと」
「少し立ち止まること」
「何もしない時間を持つこと」
「そうして身体がゆるむと、不思議と心にも余白が生まれます」
「すると今まで聞こえなかった身体の声が、少しずつ聞こえてくるんです」
「だから私は、養生にも余白は必要なんだと思っています」
バク神さまは静かにうなずく。
「余白って、こころだけじゃなくて、体にも必要なんですね」
「漠然も……そうして生まれた余白に、そっと寄り添うものなのかもしれませんね」
クコは穏やかに微笑んだ。
「答えが出なくてもいい問いもあります」
「身体が整うと、その問いとの付き合い方が少し変わることがありますから」
また、風鈴が鳴った。
ラジオでは、生姜たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
大棗が小さくつぶやく。
「ちゃんと話せてるみたい」
「ええ」
クコも笑う。
「きっと、生姜くんも何か大切なものを持ち帰ってくるでしょう」
バク神さまは湯飲みをそっと置いた。
「今日は答えをもらいに来たつもりでした」
少し考えてから続ける。
「でも…答えは見つかりませんでした」
「それでも、不思議と背中を押してもらえた気がします」
クコは静かにうなずく。
「背中を押してくれるものは、答えだけではありませんから」
バク神さまは深く一礼し、養生堂をあとにした。
店内には、まだラジオが流れている。
その向こうでは、きっと今も、
生姜も、自分だけの問いと向き合っている。
養生堂では、生姜の帰りを待つように、
急須からは、まだ静かに湯気が立ち上っていた。
第十一話 ~完~
この作品はバク然らいぶらりさんとのコラボ作品です。
合わせてこちらものぞいてみてください。
とある日の、とある二つの物語



身体は、いつも何かを教えてくれている。ほんとにそうですね。忙しいとその声が全く聞こえなくなる🙉立ち止まることでその声キャッチする習慣をもちます🙌✨
コラボでどちらの雰囲気も素敵です✨
立ちどまり余白の時間を作ることがほんと苦手です。でもそれが大事なこともすごく分かります。
クコさんの記事は「心に染み入る」不思議で素敵記事ですね☺️